2025年12月18日から日本で「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」(いわゆるスマホソフトウェア競争促進法/Mobile Software Competition Act)が施行されます。(以下、「スマホ法」)
この法律は、スマホOSやアプリストアなど、ごく一部の巨大プラットフォームに対して、あらかじめ行動ルールを定めておく公正な競争ルールを導入するもので、公正取引委員会が中心となって運用します。
この記事では、日本のスマホ法が
・EU の Digital Markets Act(DMA)
・米国のプラットフォーム規制の法制度
とどのあたりが似ていて、どのあたりが違うのかを、できるだけシンプルに整理します。
1.スマホソフトウェア競争促進法(スマホ法)とは?
対象
法律名のとおり、ターゲットは「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェア」です。具体的には、次のような“スマホの入口”となるサービスが対象になります。
・スマートフォン向け OS(基本ソフトウェア)
・スマートフォン向けアプリストア
・スマートフォン向けブラウザ
・スマートフォン向け検索サービス
ただし、すべての事業者が対象になるわけではなく、一定規模以上の事業者だけが「特定ソフトウェア事業者」として公取委により指定され、その指定事業者だけが厳しい行動ルールの対象になります。
何を規制する法律か
細かい条文はかなりテクニカルですが、公式資料を見ると、代表的なポイントとして次のような方向性が示されています。
・不公正なデータ利用の禁止他社アプリの利用状況や売上などのデータを使って、自社の競合サービスを有利にする行為の禁止(第5条関係)。
・アプリ開発者に対する不当な差別の禁止取引条件や利用条件で、特定の開発者だけを不当に不利に扱うことの禁止(第6条)。
・決済・外部リンクに関する制限自社の決済システムだけを強制することや、第三者の決済システムの利用を不当に妨げることを禁止(第8条1号)。アプリ内で外部サイトへのリンクや価格表示などの情報提供を不当に制限することを禁止(第8条2号)。
・ブラウザエンジンの縛りつけ禁止自社専用のブラウザエンジンだけの利用を事実上強制することを禁止(第8条3号)。
・デフォルト設定と“選択画面”ブラウザや検索エンジンなどについて、ユーザーが簡単な操作でデフォルト変更できるようにすること、類似サービスを選べる画面を用意すること(第12条)。
・検索結果での「自社ひいき」禁止正当な理由なく、自社サービスだけを検索結果で優遇する「自己優遇(self-preferencing)」行為の禁止(第9条)。
・データポータビリティなどデータの持ち運びツールを無償で提供する義務や、OSの仕様変更などに関する情報開示義務(第10条〜第13条)。
違反した場合、公取委は調査や命令に加えて、関係売上の最大20%の課徴金を課すことができる仕組みになっています。
2.EU Digital Markets Act(DMA)との比較
EU の DMA(EU Digital Markets Act)は、世界で最も強力なプラットフォーム規制の一つと言われています。
EU DMAの概要
対象は「ゲートキーパー」と呼ばれる巨大プラットフォーム(OS、アプリストア、検索、ソーシャルネットワーク、メッセンジャー、広告、マーケットプレイスなど)。
事前に「やってはいけないこと」「やらなければならないこと」が詳細に列挙されており、自社サービスの自己優遇、他社サービスの締め出し、非公開データの不正利用などを広く禁止しています。違反すると、世界売上高の最大10%(再犯で最大20%)という巨額制裁金が課される場合があります。
日本のスマホ法とEU DMAの関係
できるだけ簡単な言葉で表すと、日本のスマホ法は「スマホ分野にフォーカスした“日本版DMA”」という位置づけです。
【共通点】
DMA、スマホ法はいずれも、事後的な独禁法だけではなく、事前に行動ルールを定める 前倒し(ex ante) 規制となっています。自己優遇、第三者データの不当利用、外部決済の制限など、デジタル市場で問題になりやすい行為をルール化している点も共通しています。
【違い】
対象範囲や執行主体については、DMAとスマホ法で次のような差異があります。
対象範囲
・DMA →「ゲートキーパー」全般(メッセンジャーやSNSも含む)
・スマホ法 → スマホ OS/アプリストア/ブラウザ/検索に絞った構成
執行主体
・DMA → 欧州委員会
・スマホ法→ 公正取引委員会(他省庁との連携も規定)
そのため、スマホアプリやモバイル向けWebサービスを展開する日本企業にとっては、まずスマホ法を押さえておけば「EU DMAへの橋渡し」としても役立つイメージです。
3.米国のプラットフォーム規制との比較
米国には、EU DMA や日本のスマホ法のような包括的な「行動ルール集」タイプの法律はまだありません。その代わり、ケースごとの訴訟で大手プラットフォームを追及する流れが強くなっています。
具体的には、連邦取引委員会法(FTC Act)やシャーマン法・クレイトン法といった反トラスト法を根拠として、検索サービスやアプリストアを運営する巨大プラットフォームに対する訴訟が提起されてきました。
そのため米国は、包括的ルールよりも判例・個別訴訟ベースの後追い型の規制であり、その分、柔軟だが予見可能性が低いという特徴があります。
以上のとおり、日本のスマホ法は、米国型ではなく、EU 型をベースにしております。しかし、対象分野やルール設定の範囲は EU よりも絞り込まれている一方で、スマホ分野については、日本として独自にかなり具体的な行動ルールを定めている点が特徴です。
4.日本企業にはどんな影響がありそうか
スマホ法は主として「特定ソフトウェア事業者」として指定される巨大プラットフォームを直接の対象としますが、一般の日本企業に対しても間接的な影響が及ぶ可能性があります。
外部決済や外部リンクの扱いが見直されることでアプリストアの手数料や条件に変化が生じ、売上配分の構造にも一定の修正が加わる可能性があります。また、アプリ内で自社サイトへの導線を設けやすくなることから、決済手段の選択肢が広がり、サブスクリプションの設計を含めたビジネスモデルの自由度が高まることも見込まれます。
さらに、審査基準や運用ルールに関する透明性が強化されることで、これまで問題になりがちであった突然の仕様変更や規約変更といったリスクが相対的に緩和される可能性があります。加えて、検索結果やデフォルト設定における自社サービスの過度な優遇が抑制されることで、中小規模のアプリ事業者やEC事業者にとって、これまで入りにくかった市場で競争機会が広がることも考えられます。
もっとも、これらの影響はあくまでも現時点の制度設計および公表されている資料から読み取れる方向性にすぎず、実際の効果は今後のガイドラインや執行のあり方によって変動する可能性があるため、引き続き制度の動向を注視することが重要です。
5.外国法から見たスマホ法のまとめ
国際Web法設計の観点から整理すると、スマホ法はスマートフォン向けOS、アプリストア、ブラウザ、検索サービスに焦点を当てた日本版DMAと位置づけることができます。
EUのDMAと比較すると対象分野はより限定されているものの、自己優遇の禁止、第三者データの不当利用の抑制、決済手段の自由度の確保、デフォルト設定の見直しといった基本的な考え方は共通しており、制度設計としてはEUモデルに近い発想が採られています。
また、米国のように訴訟を通じた事後的な規制を中心とするアプローチではなく、あらかじめ行動ルールを明確化することで予見可能性を高める仕組みを採用している点も特徴的です。日本企業にとっては、アプリストアとの取引条件、決済やリンク設計の方針、さらには海外展開の際の法規制の比較といった場面で、この法律の重要性が今後徐々に増していくことが見込まれます。
当事務所では、今後も、日本のスマホ法、EUのDMA、米国の反トラスト訴訟の動きといった国際的なルールの変化に注目しながら、「国際Web法設計(Digital Cross-Border Legal Design)」の一環として、事業者のWeb・アプリまわりのルールづくりをサポートしていく予定です。